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もしもしかめよ

研究・ドラッグデリバリーシステム・BUMP OF CHICKENをテーマに情報を発信していくブログ

蛍光タンパク質の研究でノーベル化学賞受賞したTsien教授が死去

2008年ノーベル化学賞受賞者、Tsien教授の死

 朝起きてTwitterのタイムラインを眺めていると、衝撃的なニュースが目に入りました。蛍光タンパク質の研究で2008年にノーベル化学賞を受賞したRoger Tsien教授が亡くなったとのことです。

 

www.sandiegouniontribune.com

 正直なところ、蛍光タンパク質の研究といえばオワンクラゲからGFPを発見した下村脩先生の印象がかなり大きく、恥ずかしいことにこのTsien教授の具体的な研究内容は今日まで知りませんでした。しかし、色々な記事を読んでみると、僕の所属する研究室での研究はこの方の研究なくしては成り立たないものだということを知り、極めて偉大な科学者の死を悼みました。2008年ノーベル化学賞は、GFP研究を行った下村先生・Tsien教授・Chalfie教授の3人に贈られましたが、改めて敬意を表するとともに今回はその一連の研究を説明します。大まかな流れとしては以下の通りです。

  • 下村先生がオワンクラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見・単離精製に成功
  • Tsien教授がGFPの詳細な構造を特定、緑以外の蛍光を出すタンパク質を作製に成功
  • Chalfie教授が、生きた細胞内でGFPを発現させることに成功
  • これらの技術を組み合わせて、細胞内での分子の動きを目で見ることができるようになった。

蛍光タンパク質とは

 Tsien教授の研究を紹介する前に、まず下村先生の発見した緑色蛍光タンパク質(GFP)の簡単な説明をします。下村先生は、オワンクラゲというクラゲから、紫外線を当てると緑色の蛍光を発するGFPというタンパク質を発見し、その物質を単離・精製することに成功しました。タンパク質はアミノ酸という低分子がペプチド結合という結合でたくさん連なった物質であり、分子内で水素結合やジスルフィド結合を形成することである特定の構造体となります。GFPの場合は、その構造の一部(発光団)がある特定範囲の波長を持つ紫外線を吸収し、電子のエネルギー準位が励起されます。少しエネルギーを失って電子が基底状態に戻り、吸収したエネルギーよりも小さいエネルギーを持つ緑色の蛍光を発するのです。

GFPの改良:Tsien教授の研究成果

 GFPの発見から30年以上のちに、Tsien教授はGFPの発光団における構造変化の詳細を突き止めました。また、構成しているアミノ酸の分子構造を人工的に改変することによって、放出される蛍光の波長を調整し、緑色だけでなく他の色の蛍光を発するタンパク質を作り出すことに成功しました。「ただ色を変えるだけで何がすごいことなの?」と思うかもしれませんが、下村先生、Tsien教授とともにノーベル賞を受賞したChalfie教授の成果と組み合わせることで、現在のバイオ分野での研究に欠かせない技術となるのです。

細胞内においてGFPを発現

 Chalcie教授は、遺伝子工学の技術を用いてGFPをコードする遺伝子を線虫などの細胞に導入し、その遺伝子を発現させることで生きたままの細胞内でGFPの蛍光を観察することができることを発見しました。このことは以下のように応用することができます。例えば、ある条件下で気になる遺伝子が発現しているのかどうかを知りたいとします。GFPの技術がない場合は、細胞を破壊、内部の成分を取り出して、気になる遺伝子が発現しているときに生成されるタンパク質があるかどうかを調べなければなりませんでした。しかし、遺伝子工学の技術を用いて、気になる遺伝子の代わりにGFPをコードする遺伝子を導入することで、細胞を壊さずに蛍光があるかどうか確かめるだけで遺伝子発現の有無を調べることができます。また、その発光強度を測定することで、その発現の度合いも定量的に判断することができます。

 また、この技術と先ほどのTsein教授の成果を組み合わせることで、細胞内での分子同士の相互作用を実際に色で観察することができます。あるタンパク質①の発する蛍光の波長λ1と、その波長の光で励起され、別の波長λ2の蛍光を出すタンパク質②が相互作用しているかを確かめたいとします。その2つのタンパク質が非常に近い距離にあるとき、λ1を当てると、タンパク質①が励起され、2つのタンパク質間で蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)という現象が起こり、もう一方のタンパク質も蛍光を発します。つまり、

 λ1の光を当てる

  →λ2の蛍光が発するならば、タンパク質①と②は相互作用をしている。

  →λ2の蛍光を発しないならば、相互作用は見られない。

という風に、相互作用の有無を確認することができるのです。これは、Tsien教授が複数の蛍光タンパク質を作製していなければなし得ない観察方法でした。

 

 蛍光タンパク質は僕の研究室でも遺伝子発現の有無を調べるためにもはや当たり前のように使われています。例えば、ある細胞に常にGFPを発現させておいて、siRNA内包の粒子を導入するとその発現が抑えられるかどうか、というような使い方ですね。核酸医薬がちゃんと機能するかどうかを確かめるにはなくてはならない技術です。もちろん、この方法は僕の研究室だけでなく世界中の研究室で行われているスタンダードな方法だと思います。そのような研究を行ったお三方は本当にかっこいいです。尊敬します。そんな偉大な研究者の1人であるTsein教授がお亡くなりになったのは本当に惜しいことだと思います。今後細胞実験などを行う際は、Tsein教授に感謝の念を抱きながらやっていこうと思います。ご冥福をお祈りします。

 

けまり

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