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前田浩氏・松村保広氏がノーベル賞候補に選出【トムソン・ロイター引用栄誉賞】

前田浩氏・松村保広氏がトムソン・ロイター引用栄誉賞を受賞

 先々週の9月21日に、トムソン・ロイタートムソン・ロイター引用栄誉賞を発表しましたね。その賞は、ノーベル賞級の研究成果を残したとされる研究者を選出し、その業績を讃える目的で毎年9月に発表される賞です。(詳細はここを参照してみてください。)

 その賞に今年は日本人が3人選出されたとのことですが、その中になんと、僕の研究分野であるドラッグデリバリーシステム(DDS)にめちゃくちゃつながりの深いEPR効果を発見した前田浩氏松村保広氏の名前が挙げられているじゃありませんか!

 こんなに嬉しいことはない!ということで発表から2週間経ってしまっていますがEPR効果について記事にしようと思います。

どの程度インパクトのある研究なの?

 EPR効果の説明の前に、お二方の研究がどれだけインパクトのある研究であるかを、賞の主催者である同じくトムソン・ロイターの運営する学術文献引用データベースWeb of Scienceで確認してみましょう。 

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Web of Scienceのトップページで、お二方が初めてEPR効果を報告した論文のタイトル"A New Concept for Macromolecular Therapeutics in Cancer Chemotherapy: Mechanism of Tumoritropic Accumulation of Protains and the Antitumor Agent Smancs"を検索してみます。すると…

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出ました。被引用数3,100です。すさまじい数ですね!もちろん、発表が1986年とだいぶ昔なので、その分最近の論文よりもたくさん引用されることになりますが、それにしてもすごい数です。引用された回数が多いということは、彼らの発表が、後に続く研究になんらかの影響・説明などを与えているということです。トムソン・ロイター引用栄誉賞に選出されるのも納得ですね。

EPR効果とは?

 さて、前田氏と松村氏が発見したEPR効果とはどういうものなのでしょう。EPRとはEnhanced Permeability and Retentionの略で、腫瘍組織では正常組織に比べて血管に大きな隙間が空いているため血管透過性が高められており(Enhanced Permeability)、また腫瘍組織に入り込んだある一定の大きさを持つ物質は、リンパ系が未発達なためにそこから回収されにくくなっている(Retention)、という効果のことです。論文の詳細は記事の最後にまとめたので、詳しく知りたい方は読んでみてください。

なぜEPR効果が重要なのか?

 EPR効果は、がんに対する化学療法を改善する上でとても重要な効果です。一般的に用いられている抗がん剤は主に低分子であり、血管にわずかな隙間しかない正常組織にも入り込み、結果として副作用が生じてしまいます。しかし、抗がん剤をなんらかの形で大きくすると、抗がん剤は正常な組織には透過して行きにくく、血管に大きな隙間が空いている腫瘍組織にはよく入っていきます。つまり副作用が抑えられるということになります。さらにリンパ系が未発達なため、腫瘍組織から抗がん剤は抜けていきにくいため、薬としての効果がしっかりと発揮されます。このように、抗がん剤を効果的に作用させる戦略として、EPR効果を考慮するのが極めて大事になる、ということです。

まとめ

 今回は、ノーベル賞候補となる前田氏・松村氏が報告したEPR効果についてまとめてみました。トムソン・ロイターの予想はそこまで的中率は高くないようですが、トムソン・ロイター引用栄誉賞が与えられた数年後に実際にノーベル賞受賞となったケースは数多いようですので、いずれは前田氏・松村氏もノーベル賞受賞となるかもしれませんね。個人的には、抗がん剤をナノサイズにミセル化して実際にEPR効果によって抗腫瘍効果が高められたと初めて報告した片岡一則氏にも同時に受賞してほしいなという気持ちがあります。僕の研究は、片岡先生の研究なくしてあり得ないものですからね。まぁともかく、明日からノーベル賞ウィークが始まります。誰が受賞するのか注目ですね!

 

論文の詳細

 彼らの論文では、大きく分けて3つの実験が行われています。まず1つ目は、クロムの放射性同位体を用いて様々なタンパク質やタンパク質と高分子の複合体をラベリングし、そのタンパク質をがんが埋め込まれたマウスに対して投与し体内での動態を見る、という実験です。その結果として、分子量の小さいネオカルジノスタチン(NCS)という抗腫瘍タンパク質は血中から素早く除去され(血中半減期が短い)、腫瘍にあまり蓄積しないのに対し、分子量の大きいNCSとスチレン・マレイン酸のコポリマーとの複合体やアルブミンなどは血中半減期が長く腫瘍に蓄積されやすいということが示されています。ただ、分子量が大きすぎると、腫瘍に蓄積されるのに時間がかかるという結果も得られています。

 次に、上記のアルブミンとの親和性が高いエバンスブルーという色素をマウスに投与する実験では、エバンスブルーが血中ですぐさまアルブミンと結合し、時間とともに腫瘍部分が色素によって濃くなっていくのに対し、正常組織はほとんど色が変わらなかったという結果が得られています。

 最後に、エバンスブルー・アルブミン複合体を腫瘍や正常組織に注射する実験が行われています。腫瘍では時間がたっても染色されたままなのに対し、正常組織では注射後一定時間が経つと染色が抜けてしまっていた、という結果になりました。

 以上の結果から彼らは、ある一定の大きさの分子量を持つ高分子は、腫瘍組織における血管やリンパ系の特徴(血管透過性が高く、リンパ系が未発達)によって、腫瘍への蓄積性がよく長い間保持される、つまりEPR効果があるということを論じています。(ちなみに彼らはこの論文中ではEPR効果という言葉は用いていません)。

 原文は以下のリンクから読めます。興味のある方は読んでみてください。

http://cancerres.aacrjournals.org/content/46/12_Part_1/6387.full-text.pdf

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